美容業界の先駆者に聞く「美容師として生きる」〜その4『資生堂トップヘア メイクアップアーティスト 原田忠編』〜
確かなベースをつくり、進化し続けよう
日本を代表するヘアメイクアップアーティストである原田 忠さん。 航空自衛官を経て美容師となり、サロンワークを6年経験した 原田さんだからこそ感じる美容師の真髄とは……。
資生堂トップヘア メイクアップアーティスト 原田忠
1971年9月22日生まれ。群馬県出身。山野美容専門学校卒業。航空自衛隊航空管制官を経て美容師へ転身。サロン勤務を経て1999年、SABFAへ入学。2000年、資生堂に入社し、トップヘアメイクアップアーティストとしてNY、パリ、上海、東京コレクションのバックステージや宣伝広告ヘアメイク、商品開発に携わる。2004年・2012年にJHA大賞部門ブランプリ受賞。SABFA校長を歴任。2022年、JHAプロフェッショナル審査員就任。既成概念に囚われないビューティ表現の可能性に挑戦し続け、活躍の場は多岐にわたる。
20代の美容師へ
「型」を学び「芯」をつくる
僕は美容師時代、とにかく先輩に食らいついていました。毎日しつこいくらい質問をしてアドバイスをもらい、早く一人前になろうと必死だったことを覚えています。わからないことは1人で悶々と悩むより近くにいる人に聞いたほうが早い、そう思っていました。
20代に必要な心構えといえば、僕は 「守破離」*1 がいちばんぴったりだと思っています。美容師の基盤となるスキルをがむしゃらに吸収し、人に教えを請うことが大切です。最近は基本の「型」を学ばずして独自性を打ち出す人もいて、僕からするとある意味、新鮮なのですが、根底にある「芯」を持たずに先に進んでもいずれ行き詰まってしまう気がします。僕は前職が自衛官なので、自衛官の心構え*2 「使個責規団」を今も大切にしています。まだ何者にもなる前の20代の苦労や失敗の経験は血となり肉となるはずです。僕は今でも「今、充実してるかな?」と自問自答しています。
30代の美容師へ
基礎を発展させ、挑戦しよう
20代で得た基礎知識を応用、発展させる時期が30代です。学んだ知識と技術を連動させ、経験値を増やし、公私共に自信と信頼を得る大事な時期ではないでしょうか。さらにお店の中でも中間管理職的な立場となり、自分のことやお店のこと、後進育成のことなど考えるべきことがたくさんあり、公私共に迷い悩むことも多いでしょう。
そんな悩みを打破すべく、僕はいろいろなことにチャレンジしていました。自分のキャリアの中に収まることなく、もっと自分の可能性を探し出すべく果敢に幅広い表現を模索していたと思います。思うようにいかないときは趣味の世界に浸ったり、マンガを読んだり、映画を観たりして違う世界に飛び込みます。すると気持ちがリセットされて次に進むことができるんです。また、『サブファ』の講師として人に教えるようになったことで自分自身の学びが深まり、自分の技術を見直す機会になりました。学ぶことと教えること、この両輪が自分をさらに成長させてくれると思います。
40代の美容師へ
変化を恐れず前に進もう
ベテランになった今こそクリエイションにチャレンジしてほしいです。経営や売上げに注力しがちですが、クリエイションを継続的にすることで、ヘアデザイン表現の引き出しが増え、結果的にお客さまへの提案力の幅が広がります。クリエイションとサロンワークを分けて考えず、ひとつのサイクルの中に入れ込むとよい循環が生まれるでしょう。クリエイションを通じたチームビルディングでスタッフの個性や能力を発揮できる風土づくりができ、すぐには結果が出ないかもしれませんが、団結力や生産性も高まることと確信しています。
最近、日本髪を習う機会があり、学ぶことの楽しさや、できない悔しさを実感しています。先述の「守破離」の先には「変」という1文字があると僕は思っていて、頑なに何かを守るより壊しながら変化していくことを心がけています。変化できないといつか消費され淘汰されてしまいますよね。自分のアイデンティティを持ち、時代に合わせて変化し、進化し続けることが大事だと思います。
column: 気分を高めてくれる物と共に仕事をする
これは布袋寅泰さんの音楽活動30周年、35周年、40周年のときに制作された時計で、裏面に「FROM HOTEI TO YOU」と刻印されたものは数十本しかないという超貴重なものです。時間は誰しも平等に与えられるものであり、それをどう有効に使うかは自分次第。そんなメッセージが込められています。
最近はメンズビューティ企画を立ち上げ、身だしなみのひとつとして一般男性向けにメイク提案をする機会も多いのですが、中でも「SHISEIDO メン アイブロウ フィクサー デュオ」は僕も愛用するお気に入りアイテムです。
美容師を継続するための3つのルール
1.時間を守ることは社会人としての基本
2.仕事に欠かせないコミュニケーション能力を磨く
3.美容以外のことを体験する
※1 守破離(しゅはり)...「守」は師の教え・型・技を守り身につける段階。「破」はよいものを取り入れ心技を発展させる段階。「離」は独自に新しいものを生み出し確立する段階。
※2 使個責規団(しこせきだん)...自衛官の心構えのひとつ。使命の自覚、個人の充実、責任の遂行、規律の維持、団結の強化、の頭文字を合わせた言葉。